福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)14号 判決 1977年12月02日
当事者並びに訴訟代理人の表示
別紙当事者目録のとおり
右当事者間の懲戒処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告が昭和四五年一月三一日付でなした原告山村昭、同一柳治雄に対する各懲戒処分はいずれも取消す。
その余の原告らの各請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告山村昭、同一柳治雄と被告との間においてはそれぞれ全部被告の負担とし、その余の原告らと被告との間においては全部原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
被告が原告らに対し、別紙処分一覧表(略)「処分年月日」欄記載の日付でなした同表「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決
二 請求の趣旨に対する答弁
原告らの本訴請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決
第二当事者の主張
(事実上の主張)
一 請求原因(原告ら)
(一) 原告らは、いずれも北九州市に勤務する地方公務員であって別紙処分一覧表「被処分者」欄記載の各部局に所属し、自治労北九州市職員労働組合、自治労北九州市現業評議会(以下現評という)の組合員であり、同表「被処分者の組合役職名」欄記載の役職にある者である。
被告は北九州市長であって原告らの任免権者である。
(二) 被告は同表「処分年月日」欄記載の日付で、後記原告らの行為に対し同表「処分の根拠法規」欄記載の根拠法規に該当する同表「処分理由」欄記載の理由があるとして同表「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分をなした。
(三) しかしながら、被告のなした右懲戒処分は違法のものであるからその取消を求めて本訴請求に及んだ。
《以下事実略》
理由
一 請求原因(一)、(二)の事実中原告らの労働組合の所属及び組合役職を除いてはすべて当事者間に争いがなく、(証拠略)によると原告らはいずれも自治労北九州市職員労働組合、自治労北九州市現業評議会に所属する組合員(ただし本件一一月一三日の争議当時右市職労及び現評は自治労に加盟していなかった)であることを認めることができこれに反する証拠はない。
二 一一月一三月の争議行為について
(一) 右争議行為に至る経緯(抗弁(一)の1)及び争議行為の状況(抗弁(一)の2)の事実(たゞし自己の職務を放棄したとの点を除く)はすべて当事者間に争いがない。
右争議行為の結果、昭和四四年一一月一三日、原告平川守夫は午前八時の始業時から五分間、同小原正亮は同じく一〇分間、同山村昭は同じく二一分間、同一柳治雄は同じく一九分間いずれも無届で遅刻したほか抗弁(三)の6の(一)、(二)表に記載の原告らは同日、同表の離脱の時間欄記載の各時間いずれも無届で遅刻したことは当事者間に争いがない。
(二) (証拠略)を総合すると、市職労は昭和四四年五月二七日第四八回中央委員会を開催して第一〇次賃金闘争方針を採択し、併せて公務員共闘の行う全国統一闘争に参加し人事院勧告の完全実施安保廃棄、沖縄即時返還等を目的とする実力行使を行なうことを確認した。更に右賃金闘争をうけて翌二八日、市職労同水道評議会、同病院評議会、同港湾支部は連名で北九州市長、同市水道局長、同市病院局長、同市港湾管理者に対し、地方公務員の賃金、労働条件について労働基本権を復活し、協約締結権を含む団体交渉権を確立すること、また当局は誠意をもって交渉すること、全国全産業一律最低賃金制を確立すること、その他労働時間の短縮と定員の拡大、賃金及び諸手当の改善等三四項目にわたる賃金要求書を提出した。同年一〇月一七日、右要求に基き市当局と市職労は第一回交渉を行い市当局は賃金改善等については北九州市人事委員会の勧告を尊重する旨回答したがその余の大部分の要求項目についてはこれを拒否ないし留保した。
その後同年一〇月二二日北九州市人事委員会は北九州市職員の給与について市内民間従業員の給与との総合較差を解消するよう次の措置をとることを勧告するとして<1>給料表については現行の給料表の給料月額を人事院が国家公務員の俸給表の改定について行なった勧告の趣旨に準じて改定すること<2>扶養手当および通勤手当については人事院が国家公務員のこれらの手当について行なった勧告に準じて改定すること。
以上の実施時期についてはその基礎となった資料の調査時期を勘案すれば、昭和四四年五月一日とすることが適当であると考える、という内容であった。
市職労は一〇月二五日市労連との間に市役所共闘を設置して共同闘争体制を確立すると共に一〇月三一日第五〇回中央委員会を開催し第一〇次賃金闘争の当面する中心的課題として<1>第一〇次賃金闘争の勝利。具体的には人事委員会勧告の有利な情勢を生かしつつ職場からの切実な大幅賃上げの要求実現をめざして闘うこと<2>年末一時金要求の討議を急ぎ、要求提出後大幅賃上げと併行して全面獲得のため闘うこと<3>賃金、一時金とも「三企業を含めて差別なし」の獲得をめざして闘うこと<4>勤務時間短縮をかちとること、としそのために一一月一三日の統一行動を中心にすべての諸行動に全力をあげて取り組み、市労連との共闘を通じて共闘オルグも配置して闘うこと、その他一九七〇年をめざし安保廃棄、沖縄全面返還をかかげ総選挙への取り組みを強化することを明らかにした。
なお右課題の具体的目標として次のことを設定した。
<1> 賃金闘争を中心とする重点目標
イ 実施時期は四月を要求し、最低五月とさせること。
ロ 賃上げは最低四、〇〇〇円プラス八賃を加えたものとさせること。
ハ 中だるみを是正して凹是正と「わたり」をおこなわせること。
ニ 初任給は他の政令都市並みとし、学校調理員の格差一二ケ月短縮を実施させること。
ホ 臨時職員、嘱託の賃金を最低日額二八〇円引上げさせること。
ヘ 退職金を三五年勤続一〇〇ケ月に本俸を乗じて得た金額とすること。
ト 年末一時金は三ケ月プラス一万円を獲得すること。
チ 勤務時間は週拘束四三時間、実働三八時間とさせること。
リ 高令職員の賃金ストップの阻止
<2> 安保廃棄、沖縄全面返還、総選挙闘争の年内目標
イ 職場闘争組織は、職場要求闘争をもとに強化する。
ロ 一一月一三日の統一行動にむけて支部、分会、職場毎の体制をつくる。
ハ 一一月一一日に予定の「安保、沖縄と日本の未来」と題する辻岡靖仁の講演(学習集会)と一一月二五日予定の「千島、沖縄、安保」と題する具島兼三郎の講演は市職労の学習運動の総まとめとして組織的に取り組むこと。
ニ 総選挙勝利のための組織的体制をつくり上げること。
なお、市職労は一一月一三日の全国統一行動日には、公務員共闘、自治労とできうる限り共同行動をとることとし、同日一時間三〇分のストライキを行なう方針で、一〇月一六日ないし一八日にかけて右ストの批准投票の結果賃金問題につき賛成率九三・七%安保、沖縄問題について賛成率八五・九%の多数で右ストの実施を確認し、闘争三権を市職労執行委員会(または闘争委員会)に集約した。
同年一一月一〇日市職労及び市労連は各別に市当局と前記賃上げ要求を中心議題として団体交渉を行ない、その席上市当局は、一〇月二一日に市の人事委員会から勧告をうけ目下給与改定を行なうという方針で検討中のところ具体的内容については今後の団体交渉の過程で逐次明らかにし組合と協議を進めたいとの抽象的な回答にとどまった。
そこで市役所共闘は一一月一二日総評、公務員共闘のスト指令に呼応し(但し市労連は自治労のスト指令、市職労は、闘争委員会のスト指令)一一月一三日にストライキを行なうこととなり、前記認定のとおり片岸真三郎名をもって翌一三日、始業時刻から一時間三〇分にわたる勤務時間内集会をする旨市当局に文書をもって事前通告を行なったが、その後同日の市役所共闘の戦術委員会で、組合員が賃金カットをされずより多数の組合員の参加及び住民への影響等を配慮し結局各組織の実情に応じ二九分以内の勤務時間内集会に変更することとしたため清掃関係が二九分間以内その他の職場は一〇分ないし一五分程度の時間内集会に終った。その結果、本件清掃関係のストは平常時の清掃作業と比較し、ごみ、し尿の収集ともに業務への影響は殆んどなかった。以上の事実を認めることができ右認定を左右するに足る証拠はない。
以上によると、一一月一三日の清掃関係職員による本件ストライキは主として人事院勧告の完全実施とこれに関連をもつ北九州市職員労働者の労働条件の改善等の要求を目的とするものであった。
被告は、右ストは安保廃棄、沖縄即時返還、佐藤訪米抗議等の目的を掲げている点を把えて違法性の強いものであったと指摘する。
なるほど右ストの目的の中には被告指摘の政治目的も含まれていたことは既に認定したところから明らかであるが、成立に争いのない乙第三号証、(公務員共闘のストライキ宣言)前掲甲第一号証の二(市職労の要求書)、同第一号証の四(第五〇回中央委員会の決議事項)の各記載並びに前認定のストライキの経緯に鑑みるときは、市職労労働者の労働条件の改善等を主目的とし前記政治目的はあくまで副次的な目的としていたことが窺えるから、この点から違法な争議目的であったとみるのは困難である。
(なお地公労法一一条一項については後に詳論する)
三 一二月二九日ないし三一日の争議行為について
(一) (証拠略)によると、
原告らはいずれも地方公務員法五七条に規定する単純な労務に雇用される者で、北九州市に勤務する単純労務職員の就業に関する事項は北九州市労務職員就業規則(昭和三九年五月二五日規則第九六号)の定めるところによるが、同規則第一四条には、労務職員の休日は、国民の祝日に関する法律(昭和二三年法律第一七八号)に規定する日ならびに一月二日、同月三日、一二月二九日同月三〇日および同月三一日とする、2市長は、業務の都合により特に必要な場合は、労務職員に対し、休日に勤務することを命じることができる。3休日と勤務を要しない日とが重複するときは、その日は勤務を要しない日とする、と規定されている。
このように清掃関係職員についても年末は原則として休日とされてはいるものの、わが国では古くから年末には各家庭その他の施設で大掃除を行なったうえで正月を迎えるという風習があるため年末にはむしろ平常時よりも多量のゴミ(し尿については年末特に多量ということは云えない)が排出されるから地方自治体としては市民の右要求に応じるため年末休日とされている日にも一定の清掃作業を実施する必要性があることは多言を要しない。右の理は北九州市の場合もその例外ではなくそのため北九州市当局は年末清掃作業を重視し例年清掃作業員の協力を得て実施してきた。
勿論、右清掃作業に携わる各家庭においても右大掃除の風習に従い美しい環境で新年を迎えたいとの欲望は他の家庭と何ら異るところがないことも明白である。
ところで昭和四四年の年末清掃は後述のとおり労使間で、年末手当額等について合意に至らなかったため市職労の年末出勤拒否という事態となったが、例年についてその実態を見ると、昭和三八年北九州市設置後、昭和四四年を除いてはすべて年末休日勤務の日数及び時間数、並びに休日勤務手当加算額等について市職労の組織内組織である現評等労働組合と市当局とが団体交渉によって合意しかつ各作業員の都合をきいたうえ勤務命令を発し円滑に年末清掃作業が実施されてきた。
以上の事実を認めることができ右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(二) 北九州市当局が、昭和四四年一一月二六日市職労との団体交渉の際、同年の年末休日勤務に関する労働条件について次のとおり提案したことは当事者間に争いがない。
すなわち、一二月二九日同月三〇日の就業時間は午前八時から午後四時までとし、一二月三一日は午前七時から午後三時までとする。ただし特に指定する一部の者には深夜勤務として午後八時から午後一二時までとする。休日勤務手当又は時間外勤務手当については実働時間に相当する休日勤務手当又は時間外勤務手当(給与額の一〇〇分の一二五)を支給しさらに手当の加算額として勤務一日につき五〇〇円三一日の深夜勤務については二五〇円を支給すること。
(証拠略)によると、同年一二月四日市職労は市当局と第二回団体交渉を行ないその際市当局に対し次の要求をした。すなわち一二月二九日、同月三〇日の就業時間は当局と同様であるが同月三一日は午前七時から午前一一時三〇分までとし、手当等については一日の就労時間を一〇時間として算出した休日勤務手当を支給すること、手当加算額として一日につき一五〇〇円三一日の深夜勤務については一、〇〇〇円を支給せよというものであった。その後一二月八日同月一三日と四回にわたる団体交渉を持ったがその合意をみるに至らなかった。右の市当局の提案と組合側の要求は主として年末休日出勤に対する手当額に関するものであったところ市当局としては、昭和四三年の年末出勤の労働条件とほぼ同様のものであり、組合要求にかかる実働時間を超える時間分についても手当を支給することは不合理であり手当の加算額は北九州市職員の給与に関する条例に規定された最高額を支給するものであって他の政令指定都市の手当加算額と比較しても不当な額ではないとしてその提案を一貫して主張し譲らなかった。これに対し、市職労は右加算金五〇〇円は実質上六年間も据えおかれたままであるうえ年末休日出勤手当も大阪市(二八日から三一日まで出勤、三一日は午前一〇時終業、四九時間分の超勤手当の支給)名古屋市(二九日から三一日まで超勤手当の他に一日四〇〇円三一日は五〇〇円他に一律二、〇〇〇円支給)神戸市(二九日と三〇日で一六時間四〇分の超勤手当に加えて一日五〇〇円の支給)の各市と比較し低劣であることを主張し市当局の提案の再考を求めたが、結局両者の主張は平行線をたどり合意を見るに至らず一二月一三日団体交渉は打ち切られた。
その後市職労は一二月一八日福岡地方労働委員会に対してあっせんの申請をなし、同委員会は同月一九日労使双方に対し「今次、年末の休日出勤の件については、労使双方は歳末を控えて清掃業務が渋滞をきたさないよう、特にその重要性を考慮し、誠意をもって交渉のうえ円満解決を図られるよう切望する」との勧告を行なった(地労委勧告の事実は当事者間に争いがない)。右勧告に従い同月二三日労使間で第五回の団体交渉をしたが意見の一致をみず、さらに同月二六日松浦助役は市職労執行委員長片岸真三郎との間のトップ交渉そして同月二八日同労働委員会から「清掃関係職員の年末休日出勤の労働条件に関する紛議については他の政令市の実情を勘案して労使の間で協議決定し、歳末の清掃業務が正常な姿で行われるよう双方格段の努力をされたい」との勧告が出され同月二九日にも団体交渉を行ったが結局労使間で年末休日出勤に関する労働条件について意見の一致を見なかった。市職労はこれよりさき前記団体交渉打ち切り後の昭和四四年一二月一七日原告ら清掃関係作業員らに対し執行委員長名をもって、労使の意見が一致しないことを理由とし一二月二九日から同月三一日までの間休日出勤をしないような闘争指令を発した(右指令の点は当事者間に争いがない)。
市当局は市職労の右闘争指令により休日出勤拒否の事態となれば市民生活に対し多大の影響を及ぼすことを予想し一二月二九日同月三〇日及び同月三一日の休日についての「休日及び時間外勤務命令書」を同月二五日に清掃関係職員に対して交付した(勤務命令が発せられた事実は、当事者間に争いがない。)。
以上の事実を認定することができ右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 市職労の前記年末休日出勤拒否指令の結果、各清掃事務所及び各清掃工場に所属する清掃作業員自動車運転手ら約一、五四〇名中出勤した者は同月二九日約三四〇人、同月三〇日約四二〇人同月三一日約四三〇人でいずれも出勤率は三〇%を下廻わっていたこと、その間市当局が管理職員を動員し或は民間業者に委託して収集処理にあたり、ごみについては市民の非難を受けない程度の処理ができたことは当事者間に争いがない。
そして原告平川守夫、同小原正亮、同阿比留貞美ほか抗弁(三)の6の(一)及び(三)表に記載の原告らが昭和四四年一二月二九日から三一日までの三日間、同(二)及び(四)表に記載の原告らが同年一二月の同表無断欠勤日欄記載の日にそれぞれ休日勤務命令に従わず欠勤したことも当事者間に争いがない。
(証拠略)によると、七割以上の清掃作業員が休日出勤拒否をしたためこれをそのまま放置すれば年末清掃業務は麻痺し市民生活に重大な悪影響を及ぼすことが予想されるのでその影響を最少限にとどめるための緊急措置をとったこと、すなわち一二月二九日から同月三一日までの間に清掃事業局以外の部局から管理職員を延約四二八人臨時雇用の作業員延約一七六人を投入するとともに民間業者にも委託し車輛延二六〇台以上作業員ら延約一〇六〇人を投入してごみ、し尿の収集処理にあたった結果ごみについては既に認定のとおりであったが、し尿については、当時二〇日に一回の割で収集する目標であったところ、例年、年末にはできる限り収集し残余は越年後早い時期に収集できていたのに同年年末はその収集作業がはかどらず翌年一月二〇日ごろまで手間どり悪影響が後に残ったことを認めることができ右認定を左右するに足る証拠はない。
(四) 次に本件年末休日出勤拒否は正当な行為であるとの原告ら主張について検討する。
1 まず原告らの年末休日出勤の義務の存否につき判断する。原告ら単純労務職員の労働関係は地公労法及び地方公営企業法三七条から三九条までが準用される結果、同法三九条一項により地方公務員法五八条三項が適用されないことになるので労働基準法七五条ないし八八条を除いて同法の適用がある。
そして労働基準法三二条には労働時間の制限、同三五条には休日についての定めがある。
原告らは労働基準法に定める労働時間を超える労働(以下法外超過労働という)を労働者に義務づけるためには単に同法三六条の協定並びに就業規則の定めのみでは足りず個々の労働者のその都度の同意が必要であるとし、この理は労働基準法の範囲内で所定労働時間を超える労働(以下法内超過労働という)においても同様であると主張する。
なるほど法外超過労働の場合に三六協定に加えて、就業規則ないし協約に残業を義務づける規定があるとき、このような事前の包括的同意から個々の労働者の意思に反しても残業を義務づけうるとすればそれは恒常的、継続的な残業に道を開くことを意味し、労働基準法三二条の趣旨を脱法するものといわざるをえない。したがって残業を義務づける就業規則の規定は同法三二条に違反する限度で無効となるから八時間を超える残業を使用者から申し込まれても、個々の労働者がその都度の同意を与えた場合にのみ労働契約上の残業義務が生じると解される。
しかし法内超過労働の場合には就業規則ないし協約で残業義務づけ規定を設けても同法三二条違反とはならず労働条件の基準として労働契約の内容となり得ると解される。しかし就業規則や協約に一般的概括的な残業規定がある場合に個々の労働者の残業義務を全面的に肯定すれば事実上所定労働時間制の建前を崩し恒常的な超過労働を容認する結果となり同法一五条の労働条件明示義務違反の疑問も生じる。したがってこのような場合には労働者にも超過労働を拒否しうる場合のあることが承認されるべきである。そしていかなる場合に労働者の拒否が正当とされるかは、基本的には、超過労働を命じる使用者側の必要性と、労働者側の拒否事由の合理性との利益衡量によって判断すべきものと考える。
いまこれを本件についてみると、前認定のとおり就業規則で一二月二九日ないし三一日を休日と定めながらも「業務の都合により特に必要な場合」は休日勤務命令を命じうる旨の一般的概括的な規定があるところ右「休日」は労働基準法三五条に定められている休日とは異る。同条に定める休日は、北九州市労務職員就業規則一三条に「日曜日は勤務を要しない日とする」と定められ、これが労働基準法三五条に定める休日に該当する。而して北九州市職員の給与に関する条例(<証拠略>)の付則二二項、第四条一項、第一九条一項によると右就業規則の勤務を要しない日は給与支給の対象とならないが休日については給与支給の対象とされている。
右のように就業規則一四条の休日は労働基準法三五条の「休日」ではなくこの基準を上まわって国民の祝祭日、年末年始を休日としているのであってこれらの休日には労働基準法三三条、三六条の制限がなくまた同法三七条の割増賃金を支払うことも要求されてはいない。
しかし休日となっている日に働かせる以上は割増賃金を支払うことが望ましいことはいうまでもなく北九州市においても単純な労務に雇用される北九州市職員の給与に関する規則九条(<証拠略>)前記給与条例一九条二項によって右就業規則上の休日に勤務を命じられて勤務した職員に対しては所定の特別手当が支給されるほか勤務一日に対し五〇〇円の範囲で市長が定める額が加算して支給されることになっている(北九州市職員の給与に関する条例付則二〇項―昭和四七年一〇月一一日改正前のもの―<証拠略>)
そこで次に原告らに年末出勤拒否が正当か否かについてみるに、市当局の側の年末清掃は、毎年定期的な繁忙期であってその必要性は既に認定したところから明らかである。
(人証略)によると一二月二五日ごろ原告ら清掃作業員に一二月二九日ないし三一日の休日に勤務するよう勤務命令書を各人に交付すると同時に都合により出勤できない者は同月二五日、二六日の間にその事由を疎明するよう伝えたにかかわらず年末休日出勤を拒否した前記の原告らはこれを疎明せず無断で欠勤したことを認めることができ右認定を左右するに足りる証拠はない。
むしろこれまで認定してきたところ並びに弁論の全趣旨によると年末休日出勤についての手当額等の労働条件が市当局と市職労との数回にわるた団体交渉によっても合意に至らなかったことから市職労がその主張を貫徹するためその闘争戦術として年末休日勤務拒否の指令を出し原告らは右指令に従って統一的な集団的行為に出た結果であると見るのが相当である。
そうであるとすれば、市当局の年末清掃の必要性の存在に比し原告ら側における拒否事由は右の団体交渉による労働条件の不一致を除いては存在しなかったことに帰する。そして右不一致は争議行為の理由となり得ても原告ら各自の出勤拒否の正当事由と見るのは困難である。(かりに本件休日勤務命令が無効であるならば労働義務も生じないからストライキとはなり得ず休むのは当然の権利行使となる。)
以上の次第であるから原告らは本件就業規則に基づく勤務命令に対しこれを拒否し得る場合にあたらないと解するのが相当である。
2 原告らは就業規則一四条二項の「業務の都合により特に必要な場合」とは「予期し得ない災害等の緊急な、しかも団体交渉を聞き得ない場合」と解すべきであり、毎年の年末清掃の場合は含まないと主張する。
労働基準法三三条一項には災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合においては使用者は行政官庁の許可をうけてその必要の限度において第三五条の休日に労働させることができる旨規定されている。右規定は同法三五条に定める休日に労働させることができるものであるから、法内超過労働の場合よりも更に厳格な要件を規定したものであって本件就業規則一四条にいう休日は右三三条一項及び三五条に定める休日ではないから同規定を類推して解釈することはできない。また休日勤務の労働条件(手当額)については前述のとおり給与に関する規則によって手当額等が一応定まっているが、物価の上昇する時代にあっては画一的に前年の勤務条件をそのまま維持することは休日に働く清掃作業員にとって酷な場合もありえよう。したがってこれらの勤務条件についてはできる限り市当局と労働組合との間で団体交渉を尽しそこで合意をえたうえで市当局は各人の都合をきき勤務命令をするのが望ましいことは言うまでもない。
しかし就業規則の解釈としてこれを要件としていると見るのは文言からいっても無理な解釈であろう。前述した年末特別清掃業務の必要性および原告らは同職種の私企業労働者と異り市民の利益、公益に奉仕する立場にあることをも併せ考慮すると「業務の都合により特に必要な場合」とは毎年の定期的な繁忙時である年末清掃業務もこれにあたると解されるが、ただ特に必要な場合として限定しているのはできるだけ休日の趣旨を生かしうるよう時間的並びに人員的にも不必要な人員を年末清掃にかり出さないという意味合いをもつものと解される。
本件勤務命令書は清掃作業員全員に交付しているが、前述のとおり市職労が休日勤務拒否の指令をしたことからとられた措置であることまた右命令書交付にあたっては休日勤務をできないものについてはその事由の疎明の機会を与え休日の趣旨をできるだけ生かしうるよう配慮されていることを考慮すると本件勤務命令は就業規則一四条二項の解釈を誤って発せられたものとはいえずこの点に関する原告らの主張は採用できない。
3 たしかに本件年末清掃を除いては北九州市では例年年末休日出勤についてはその労働条件を市当局と労働組合とが団体交渉をしその合意をえたうえで勤務命令を出していたことは前述のとおりであり右合意を前提とすることなく市当局の一方的勤務命令によったことは本件の場合のみであるが、前叙のとおり本件就業規則第一四条二項の一般的概括的規定のみで各労働者に対し全面的な労働義務を肯定せられうるものではなく労使の利益衡量の結果、右条項に基づく出勤命令を拒否しうる場合のあることは肯定される。ただ本件にあっては右利益衡量の結果原告らに出勤拒否の正当な事由がなかったにとどまる。従って、具体的には勤務命令に対し原告らが拒否事由を疎明し得なかったことによって原告らは確定的に休日出勤義務を負うに至ったものといわざるを得ない。なおこれまでは労使の合意を前提に勤務命令が発せられておりいわば望ましい状態が毎年繰り返されていたということであってこれが慣習法として法規範性を有する旨の原告ら主張はその証拠もなく到底採用できない。
4 次に不当労働行為の主張につき判断する。
年末休日出勤及びその労働条件が団体交渉の対象となりうることは地公労法第七条の規定により明らかであるが、就業規則一四条二項に基づく休日出勤命令が、休日についての労働条件の変更とは解せられない。年末清掃業務の必要性に鑑み当初から無条件でもって休日と定めたものでないことは明らかである。
市当局と市職労との間の前記団体交渉において市当局が当局案を一貫して主張し譲歩の姿勢が見られなかった反面市職労の手当額の増額要求にも、前年と比較し或は他都市と比較しある程度までは無理からぬ面もあったものと推測しうるが団体交渉そのものは数回にわたって行なわれ、市当局が単に形式的な団体交渉に終始したともいえない。
市当局が労使の合意が得られず一二月二五日に一方的に出勤命令を出さざるを得なかったのは市職労がこれより先の一二月一七日に休日出勤を拒否するとの指令を発したためであると推測される。
従って市当局が市職労の運営に介入する意図をもって本件出勤命令を出したとは考えられないからこの点に関する原告らの主張は採用できない。
5 以上検討したところによると、原告らは本件休日勤務命令を拒否し得ない場合換言すればこれによって出勤義務が発生した訳である。しかるに市職労の休日出勤拒否の指令に従って統一的集団的にその業務の正常な運営を阻害する争議行為を行ったものといわざるを得ない。すなわち、(人証略)に見られる如く市職労執行部及び組合員の多数が休日となっている日に休務するのは当然の権利行使であるとの認識をもって休務したとしても、市職労の統制下に集団的に労務の提供を拒否する結果を招き、これが業務の正常な運営を阻害する限りにおいて争議行為に該当することは否めない。
四 地公労法一一条一項は憲法二八条に違反するか
(一) 憲法二八条は勤労者に対しいわゆる労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障している。その趣旨は憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし憲法二七条の勤労の権利及び勤労条件に関する基準の法定の保障と相まって勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。
そしてこの権利は勤労者として自己の労務を提供することによって生計の資を得ている原告ら地方公務員(単純労務員)も憲法二八条にいう勤労者にあたることはいうまでもない。
しかし公務員(国家公務員)については憲法二八条による労働基本権の保障と同時に他方で憲法上の地位の特殊性から憲法の他の規定との調和の観点から私企業労働者と全く同様の保障があるとはいえずそこには制約の存することを否定できない。憲法上の制約規定は憲法一三条の他に憲法一五条の「国民全体の奉仕者」であること、勤務条件法定主義ないし財政民主々義(憲法七三条四号、八三条)等を掲げることができる。
憲法一五条の規定から労働基本権の制約を直接根拠づけることはできないが、労働基本権のうち、その権利行使の結果が、公務員が奉仕しなければならないところの国民の生活全体に直接影響を及ぼす争議権については、国民全体の共同利益の擁護という見地からの制約を免れない。
また公務員の勤務条件一般の決定権が最終的に国会にあり勤務条件のうち予算に関係するものについて財政民主々義の原則が併せ考慮されうる。しかし私企業労働者の如く、公務員の勤務条件は労使共同決定の方式を憲法上採用していないことから直ちに公務員には憲法上団体交渉権を保障する余地がないとはいえない。すなわち公務員の勤務条件に関する基準が細部にわたって法律によって決定される必要のあることまでを憲法が予定しているとも考えられず、法律で大綱的基準を定めその具体化を使用者としての政府と公務員組合の代表とが団体交渉によって決定することも可能であり、また政府との団体交渉によって得られた合意を原案とし国会に提出し、国会が国の財政的、政治的及び社会的な合理的な配慮によって最終的に判断し決定することと何ら矛盾するものではない。公務員の勤務条件の決定方式が憲法上私企業労働者と相違することを容認したうえなお憲法上公務員に団体交渉権を保障した趣旨は、私企業の場合の如く最終的に労働条件の労使共同決定ができないまでも公務員が代表を通じ勤務条件の改善を求めるために自由にその意見、見解を表明し、場合によっては団体交渉による合意に基づく原案の決定等により事実上公務員の意思も国会に影響を及ぼすこともあり結局公務員の経済上の地位の向上に役立ちうるという機能的な側面を有すからにほかならない。
そして憲法はこの意味で私企業労働者とは異った方法、いわば公務員であること(国民全体の奉仕者たる地位)から修正されたところの団体交渉権を保障したものと考えられる。
右の理は原告ら地公労法の適用を受ける地方公務員(単純労務員)にも直ちに妥当するものといえる。
現行の地公労法が第五条で職員の団結権を認め、第七条、第八条により労働協約締結権を含む団体交渉権を保障し第八条一項で条例に抵触する協定の措置につき規定したのは憲法二八条によって団体交渉権を保障した趣旨を具現した一方法であると解されるのであって、憲法二八条の要請に基づかずして単に国会の立法政策の問題とは考えられない。
このように公務員の労働基本権の保障は私企業労働者のそれと同列に解することはできないが、公務員の憲法上の地位の特殊性を考慮し国民全体の共同利益の擁護と公務員の労働基本権の保障という二つの要請を、前記の労働基本権の保障の趣旨を考量しつつ適度に調整する措置が必要となる。
右のような見地に立って、具体的な法律による労働基本権のいかなる制限が憲法上許容されるかについて検討する。
労働基本権制限の合憲性判断の基準として全逓中郵判決は次の四つの基準を示したが、当裁判所も右各基準を考慮して判断するのが相当であると考える。
すなわち<1>労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮するとその制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきであること<2>労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いもので、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮さるべきこと<3>制限違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度を超えないように十分配慮せられるべきであること<4>職務または業務の性質上、労働基本権を制限することがやむを得ない場合にはこれに見合う代償措置が講ぜられなければならないこと、以上の四条件である。
なるほど労働基本権は生存権保障のための手段的権利ではあるが、それは勤労者が経済上劣位にあることから、その経済的地位の向上ひいては社会的な地位の向上を目指し、自らの努力によってこれを実現しようとするものであるから代償措置があってもその機能的な面において相異があるのみならず、法律制度上の代償措置が十全に現実に機能しているかどうかその社会的事実関係を更に検討する必要もあると考えられる。
(二) 地公労法の適用のある地公労法三条二項規定の職員並びに同法を準用される単純労務職員の業務はその性質上一般的に公共性を有することは否定できないが、その業務の性質、内容は公共性の強いものから私企業における公共性と比較しそれほど変わるところのないものまで多岐にわたっている。
またひとしく争議行為といってもその種類、態様、規模は多種多様であって住民生活に及ぼす影響の程度も異ってくる。
ところで地公労法一一条一項の規定を文言どおりに解釈すれば、地方公営企業体等の職員並びに単純労務員は、あらゆる争議行為を、一律、全面的に禁止しているものと解さざるを得ないが、そうであるとするならば労働基本権制限の合憲性判断の基準として示した前掲<1><2>の基準に適合しないものとして違憲の疑いを免れない。すなわち労働基本権は、団結権、団体交渉権及び争議権を一体として保障することで労使の対等関係を維持すべく、争議権を事前に一律全面的に禁止した場合における団体交渉権は単に団結を背景とした交渉権に過ぎないものとなり、争議権を伴った団体交渉権との間には著しい差異のあることを看過すべきでない。従って争議権を制約するにあたっては多種多様の規整方法が存在するに拘らずこれを一律、全面的に禁止することは、合理性の認められる必要最少限度のものにとどめられるべきであるとの要請に反する。
また地方公営企業職員並びに単純労務員の職務の公共性の強弱、争議行為による住民生活に及ぼす影響の度合等につき考慮していないという意味でも前記<2>の判断基準に適合しない。
しかし法律による禁止制限が文理上その内容において広範に過ぎ、憲法の保障する基本的人権を侵害するような場合その法律を常に全面的に違憲、無効としなければならないわけではなく主要な部分が合憲として是認しうるものであればその法律の規定を可及的に憲法の精神に則してこれと調和するようにしてできる限り合憲的に解釈する方が、その規定を全面的に違憲無効として排斥するより国会の立法権を尊重する趣旨からみても合理的で妥当なものというべきである。
そうすると地公労法一一条一項の規定を労働基本権を保障した憲法二八条の規定の趣旨と調和するように解釈するならば地公労法一一条一項の趣旨は、地方公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関関係的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限りこれを禁止したものと解するのが相当である。
右のように地公労法一一条一項を限定的に解釈するならば右規定は憲法二八条に違反するとは断定できないので右規定を文言どおりに解釈しこれを違憲、無効であるとする原告らの主張は採用できない。
五 本件各争議行為は地公労法一一条一項に禁止する争議行為に該当するか
(証拠略)によると、北九州市では市が清掃作業員を雇傭し、直接、市の清掃業務を処理しているところ他方清掃業務の一部を民間業者に委託して処理しその割合は逐年増加の傾向にあるが本件各争議当時は約七割は市が直接その処理にあたっていた。
ところでごみ及びし尿の収集処理にあたる清掃業務は市民の生活環境、健康、衛生等と深いかかわりをもち、これが停廃はそれが長期化すればするほど単にごみ、し尿の収集処理の計画収集を混乱させるにとどまらず、場合によってはごみ、し尿の滞貨等を原因とする不衛生状態から市民の生命、健康、公衆衛生等に重大な障害を発生させる危険のあることが推測される。他方清掃業務の短時間にわたる一時的停廃は所定の収集計画に若干の支障は生じても、その後の努力によって旧復可能であって市民生活に対してはそれほどの支障をもたらさない。なお市当局が委託業者に委託する割合が少ないほど換言すれば市の清掃業務に対する独占率が高いほど、清掃業務は市民が市当局に依存する度合が大となりひいてはその公共性も強くなるものと考えられる。
以上の事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。このように見てくると、単純労務職員であるとは言え、原告らの従事していた清掃業務は、地域の住民生活に対し深いかかわりをもち、職務の停廃が長期化すれば市民の生命、健康、公衆衛生等を危くするおそれがある意味においてその公共性は比較的強いといえる。
これまで述べてきたところから地公労法一一条一項で禁止する争議行為には、本件清掃業務の場合、短時間にわたる職務の停廃であってごみ、し尿の収集計画が若干延長し市民生活に単なる迷惑を及ぼす程度のものはこれに該当しないと解せざるを得ない。
そうであるとすれば本件一一月一三日のストライキは、既に認定のとおり自治労の公務員賃金引き上げ、人事院勧告の完全実施を主たる目的とし、右方針に従った市職労の指令の下に予め示された方針に基づいて統一的に行なわれたもので、ストの態様は単なる労務の不提供でありその時間も始業時から二九分以内であり大部分の者は約一〇分ないし二〇分就業時刻が遅れた程度であり市民生活に対しては殆ど支障はなかったから地公労法一一条一項の禁止する争議行為には該当しない。
しかし一二月二九日ないし三一日のストライキは、既に認定の経緯によって市職労の指示によって統一的、集団的に行われたものであり、原告らのうちには三日間全部欠勤した者、二日間欠勤した者、一日欠勤した者等の差異はあるが、参加人員の大量性、ストライキ期間の長期性等考慮すれば、市当局が、右ストライキに対する緊急措置をとらなければ市民の生活に対し重大な支障を及ぼし得るものと推測される。
従って北九州市における清掃業務の公共性、本件争議行為によって市民生活に及ぼす虞れある支障の重大性等を併せ考慮するならば、右のストライキは地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものと考えられる。
六 本件各処分の効力について
(一) 原告らの個別非違行為について
1 原告平川守夫同小原正亮について(人証略)によると、
八幡西清掃事務所長市原義雄は、昭和四四年一二月二四日同所各係長に対し同月二四日ないし二六日にかけ各清掃作業員に年末出勤を呼びかけ、各人の都合により出勤できない者は右三日間に出勤できない事由を申し出てその疎明をするように各作業員に周知徹底方を指示した。
そして翌二五日午後三時ごろ同所長は同所作業員の一部の者からの希望に応じ同事務所作業員控室において同所作業員らに対し一二月二九日ないし三一日の休日勤務命令について説明しすでに勤務命令書を各人に交付しておりこの勤務命令に従うべきこと、もし出勤できない者はその事由を疎明するように伝えると同時に右事由を疎明しないで欠勤すれば違法行為となる旨警告している際、原告平川守夫は大声で同所の作業員らに対し、「休むことは当人の勝手だ。」「お前たちも休め、所長のいうことは違う」との趣旨の発言をし、同所長にまつわりながら所長の説明を妨害した。
そこで同所長は「正しく聞こうとしている職員が多々あるので君の言動は決して正しい行為ではないからつつしむように」といって同人を制止したがこれを聞き入れず更に右のような趣旨の発言を繰り返して同所長の説明を妨害した。その後同所長は運転手控室、食堂等の各部屋を廻わって在室の職員に対し前記勤務命令についての説明を行った際にも、原告平川守夫は終始一貫、づっと同所長につきまとい「休むのは勝手だ。おおいみんな出るな。所長のいうことを聞くな」といって清掃作業員らに対し右勤務命令に従わないよう呼びかけた。
原告小原正亮は、昭和四四年一二月二七日午後二時四〇分ごろ、前記所長が同事務所作業員控室で清掃作業員らに対し仕事納めの挨拶にひきつづき携帯マイクで前記勤務命令の指示をし疎明するよう伝達しているがまだ疎明をしない人が多いことに関し、その疎明をしないで欠勤すると違法行為となる旨警告している最中に、同所長に近づき、大声で同所の清掃作業員らに対し「休むのはおれたちの権利だ。みんな所長のいうことを聞くな、みんな勝手に休め」と呼びかけた。
そこで同所長は「職員は真面目に説明を聞いているのだから、」といって同人の言動を制止したが聞き入れられず、前記と同様の趣旨の言葉を繰り返して同所長の説明を妨害した。
そして同原告らの言動に刺激された作業員らのうちには「その市原をたたき殺してしまえ」などと大声で叫ぶ者もあり同室内は騒然となった。
以上の事実を認めることができ、原告本人小原正亮の供述も右認定を覆えすに足りず、他に右認定に反する証拠はない。
2 原告阿比留貞実について
(人証略)によると、
原告阿比留貞実は昭和四四年一二月二九日午前八時三〇分ごろ門司清掃事務所入口において、自転車で清掃作業のため出勤したと思われる同所作業員の一名に対し、「今日は仕事をせんでよい日だ、組合の指令があるまで仕事をせんでよい」旨伝えたことからその作業員は帰宅した。
もっとも同日は市職労はピケを張っていなかったので、原告阿比留の右行為はピケ要員としてその説得にあたったものではない。以上の事実を認めることができこれに反する証拠はない。
3 原告山村昭、同一柳治雄について
抗弁(三)の4の原告山村昭の<1>及び同5の原告一柳治雄の<1>についての各主張は、これに符号する(人証略)があるが、右証言中、右森崎が午前五時三〇分ごろ登庁して来た管理職三名を庁内に入れるため、同宿直室入口の扉を開けようとしたのに対し、原告山村昭同一柳治雄らのピケ要員が同入口扉を外側からひじと背中で押さえ開けさせないよう妨害し前記三名の入庁を阻止したとの点は原告一柳治雄の供述に照らしにわかに措置できない。
すなわち、原告一柳治雄の証言によっても、同人及び原告山村昭が同日午前五時から七時ごろまでピケ要員として門司区役所宿直室入口の扉に背をもたして立っていたことは明らかであるが、同日午前五時三〇分ごろ右森崎が同扉を開けようとしたか否かはともかくとして、同人の証言によるも右扉を開けようとして扉の外側にいたピケ要員らと扉を押し合ったとか、或はピケ要員に対し扉を開けるよう要請したとかの形跡は全くない。加えるに右扉はガラスの部分もあったから(原告一柳の供述)もしこれを内側から強く押せばそのガラスが割れるものと推測される。このような事情を併せ考慮すると原告山村昭同一柳治雄らが右扉を開けさせないように押して前記三名の入庁を妨害したとみるのは困難である。
なお、右三名の説得にあたったのは右原告らでないことは原告一柳治雄の供述により明白である。
従って入庁阻止行為についてはその証明がないことに帰着する。
(二) 既に認定のとおり原告らに対する本件各処分は争いのない事実であるところ右各処分をその行為との対照において統一的概括的に見ると、原告平川守夫同小原正亮が最も重い処分で停職一月でその行為はすでにみた如く一一月一三日のスト参加、年末出勤拒否三日間及び前認定の非違行為が加わっている。
原告一柳治雄と同山村昭は一一月一三日のスト参加と非違行為(証明なし)によって減給処分となっているが、その余の原告については、年末出勤拒否が二日間以内であるか三日間全部にわたるかによって前者が戒告後者が減給とされている。
右事実から本件処分を考察すると、北九州市当局は、原告平川同小原の非違行為を重視しているのは勿論、一一月一三日のストよりはるかにその影響の大であったところの年末出勤拒否を重しとし就中、三日間全部にわたって年末出勤を拒否した行為を重視しているものと見ることができる。
そこで原告らの懲戒権濫用の主張について判断する。
まづ一一月一三日のストライキが地公労法一一条一項に禁止する争議行為に該当しないことは前叙のとおりであるから被告は右ストライキ参加を違法行為としてこれに懲戒処分をすることは許されない。
つぎに原告一柳治雄同山村昭の各非違行為の主張はその証明がないからこれを理由に懲戒処分をすることが許されないのは言うまでもない。
そこで本件処分の基本となったと考えられる年末出勤拒否であるが、既に認定のとおり本件年末出勤拒否は原告ら主張のごとく出勤義務が存在しない場合には該らない。
なるほど年末出勤の労働条件についての労使の団体交渉において北九州市当局の側にその対応の姿勢において若干とがめられる点があったにせよ、既に認定したところからみて、誠実に団交義務を尽さなかったとみることは困難である。
右年末出勤拒否が単純不作為であったことが、その影響の重大性を減じうるものとは言えない。
これら諸般の事情を考慮すると、被告が右年末出勤拒否を本件処分の基本としたことは妥当であったと言いうる。そして三日間全部にわたって年末出勤拒否をした者に対し減給処分二日以内の年末出勤拒否者に対して戒告処分としたことは処分権者に与えられた合理的な裁量権に属する。
このようにみて来ると原告一柳治雄同山村昭に対する減給処分はいずれも処分事由が存在しないに拘らず処分をしたことに帰着するので取消しを免れない。
原告平川守夫同小原正亮の前記非違行為は、年末休日には労使の合意なしには出勤義務が存在しなく従って当日休務するのは各人の権利だとの認識があったから前記の如き発言となって表われたものと考えるが、右の認識はこれまで認定してきたところによって必ずしも正当とは言い難いだけでなく、勤務命令につき説明し、出勤できない者についてはその事由を疎明するよう清掃作業員に対し同所長が説明しているのであるからその場で、その説明を妨害する行為は甚しく不当である。
右行為を勘案し右原告らをそれぞれ停職一ケ月に処したことは何ら違法でなく懲戒権の濫用ということはできない。
なお昭和四四年末における原告平川守夫同小原正亮同阿比留貞実のすでに認定の各行為及び原告一柳治雄同山村昭を除くその余の原告ら七〇四名の各行為は、それぞれ地方公務員法三〇条、三二条、三三条、三五条及び地公労法一一条一項に違反する。
従って被告が地方公務員法二九条一項一号ないし三号までの規定に則ってなした本件各処分は、原告一柳治雄同山村昭を除いて結局正当であったというほかない。
(三) 以上の次第であるから被告のなした原告一柳治雄同山村昭に対する各懲戒処分は違法なものであるから、その取消を求める同原告らの請求は理由があるのでこれを認容するがその余の原告らの各請求は理由がないから棄却することとし訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡野重信 裁判官 中根与志博 裁判官 榎下義康)
別紙 当事者目録
原告 小原正亮
(ほか七〇八名)
原告ら訴訟代理人弁護士 三浦久
(ほか三〇名)
被告 北九州市長 谷伍平
右訴訟代理人弁護士 苑田美穀
(ほか二名)
被告指定代理人 篠木幹夫
(ほか四名)